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2016年 03月 11日
心を揺り動かされた小説を紹介します。
北海道・釧路を舞台に、男と女の嫉妬と欲望がうごめく長編心理サスペンス「無垢の領域 桜木紫乃・著/新潮文庫」です。 出版社からの紹介はこちら。 http://www.shinchosha.co.jp/shinkan/nami/shoseki/327723.html 家内が読み終えたものを、どれ暇つぶしにと軽い気持ちで読み始めました。 まあ暗いお話しです。 自然が厳しく財政的にも苦しい道東・釧路で「嫉妬」をテーマに哀しい物語が展開します。 血沸き肉躍るとか、颯爽とした主人公の生き様に心躍るとか、司馬遼太郎の作品に感じるような小説のだいご味はまったくありません。 この主人公の生き方に感銘を受けた、とかの前向きな気持ちにもなりません。 登場人物の誰もが、さまざまなネガティブを抱えて暗い気持ちで日々を過ごしています。 ハッピーエンドではなく、救いのないようなラストで決して後味のよい作品でもありません。 正直なところ、途中までは陰気すぎて読むのをやめようかと思うくらいでした。 ところが、誰でもが持つ心に秘めた暗い感情を巧みにサスペンスに仕立て上げる力量に途中で気づきました。 そして、緻密に計算された構成と思いもよらない展開に驚きます。 ぐいぐいと物語に引き込まれ、作者のうまさに圧倒されます。 なるほど、この何気ないシーンが、この話しの伏線になっているのかというシーンがたくさんあります。 ストーリーテラーとしての著者の力量に感服して二度読みしてしまい、こんなブログを書くことになりました。 舞台の釧路は作者の故郷です。釧路の観光使節を勤めているそうです。 しかし、ここで描かれる釧路はちっとも魅力的ではありません。 炭鉱と漁業が廃れてしまい、人通りの途絶えた街中の描写は北国の過疎とはこういうものだと教えてくれます。 夏がないと言われる冷涼な北の大地は小説の内容とぴったり合って重苦しい空気が漂います。 道東は生きてゆくだけで厳しいことを教えてくれます。 しかし、釧路には国立公園の湿原とか丹頂鶴とか夕日とかアピールするものがいくらでもあります。 なぜこの小説には出てこないのか? ドラマ化されるのであれば、観光客をひきつけるような場所を舞台にして欲しいものです。要らぬお世話でした。 なぜ、この小説に心を揺り動かされるのだろう。 ネガティブな感情を包み隠さずストレートに描いている、過剰な露悪もなければ自虐もない、そこがこの小説の価値なのかな。そんな気がします。 帯にあるように、子どもように無垢な女の出現によって、登場人物たちの嫉妬と欲望がうごめき出す、と俄然おもしろくなります。 嫉妬と欲望を背負う市井の人々の葛藤。心躍る英雄譚とはまったく違いますが、普段見たくないものを見たら、そこには哀しい美しさもあった。 感動というのとは違いますが、そんな感じですね。 重要な舞台となる幣舞(ぬさまい)橋を訪ねてみたくなりました。
by mixa_suwa
| 2016-03-11 09:30
| 神楽坂日記
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